祈り花

小説

2. クルクマ (あなたの姿に酔いしれる)

負け組の授業に友達は割といる。

20人中7人くらいとは友達をやっている。

友達でいるというよりはやっているに近い。

また僕の黒い部分が出てしまった。

「起立、よろしくお願いします」

授業が始まる。挨拶から始まり、今日は履歴書

の書き方を習った。この授業の先生はすごい人

みたいで、PTO法人の会長をやっていたり、ビ

ジネスマナーの本を書いていたりこんな所で講

義するような人ではない。授業の中盤に差し掛

かって僕は斜め前の女性に目がいった。

結構美人である。友達に確認してみた。

「あの子綺麗じゃない?」

「めっちゃキレイ」

やはり、他の人から見ても綺麗らしい。

「狙えば?」

隣の阿呆が言ってくる。

また、その女性をみた。右手の薬指には金色の

ピンキーリングが光っている。

「彼氏持ちだよ、あの子」

友達は残念そうな表情を見せた。

けど、また息を吹き返したように言ってくる。

「けど、あすかならいける。余裕だろ。」

何を根拠に言っているのか意味がわからない。

授業が終わり次第声かけてみようか?

別に付き合いたいという訳では無い。

けど、その子のなにかに惹かれた自分はいた。

端正な顔立ち、高い鼻、そしてなにより

邪悪のないような光のある黒目。

彼女のことを何も知らない僕が自分のことを知

って欲しいとおもってしまった。

 

 

 

「あの、連絡先交換してもらえませんか?」

僕は授業が終わってすぐ帰ろうとする女性を呼

び止めた。

「いいよ」

静かに言う。連絡先を交換した。

「いや、まさか、断られたらどうしようかと思ったよ!」

僕はどうにか好かれようと作り笑いを浮かべ

た。これは世間でいうナンパというやつなのか

わからないけれど、周りから見たらそうなのだ

ろう。けど、彼女の口から出た言葉は僕には

想像もつかないようなことだった。

「別につくんなくていいんじゃない?」

僕は素直に驚いた。まるで僕の身体の全てを知

り尽くしたかのような、そんな感じだった。

「どういうこと?」

僕は焦りを隠して聞いた。

「別に」

そう言って彼女は帰ってしまった。

僕の、この君との出会いは嵐のような幕開けだ

ったのである。君にとっては静かな出会いだっ

ただろう。でも僕にとっては蝉がアピールする

ために必死に鳴いてる夏のようなそんな春だっ

た。

 

 

喫煙所にいた僕は1人で君のことを考えてい

た。メビウスを手に取った僕は静かに火をつけ

た。タバコの先は激しく燃えている。

なんで、彼女は僕のことを見透かしたのだろ

う。必死な作り笑いが妙だったのか、作り笑い

を少し練習してしまった。僕の手は勝手に動い

ていた。

"こんばんわ、なんでつくんなくていいの?っていったの"

親指が送信ボタンのところにいく。

勢いでこんなことを送ってしまったけど、あん

なに驚いて衝撃が走ったのは久しぶりであっ

た。彼女の返信は早かった。

"そんな作って過ごして楽しい?"

会話になってない。返事に困った。楽しいか楽

しくないかで言ったら楽しくない。けれど、楽

になることは多い。別に反論されることなんて

ないし、自分の本当の気持ちを言ったところで

世の中は変わらない。

そのまま考えたことを返した。

"楽しくはないけど、楽なんだ"

彼女の返事にまた驚いた。

"そんなことより明日雨だね"

またしかとされた。

"明日学校終わったら、私のところ来て"

なんだろうと首を傾げながら

"わかった"

と送った。

"終わったら学校の売店の前にいる"

 

訳の分からないやり取りだけど

僕の胸は高鳴っているのは分かった。